2023年5月6日土曜日

アンプとスピーカーの関係

ダンピングファクター

スピーカーを駆動するためのアンプは、ダンピングファクターが高くあるべきである。ごもっとも。スピーカーは電流で駆動されるので、より多くの電流を流し込めるアンプが良い。ごもっとも。

ダンピングファクターというのは、アンプの出力インピーダンスの低さを表す数値で、スピーカーのインピーダンスである8Ωをアンプの出力インピーダンスで割った数値で表現される。ダンピングファクター1というのは、出力インピーダンスが8Ωのアンプだという意味である。1.0ということは、アンプとスピーカーの間のインピーダンスマッチングが取れているというわけになるだが、実際のところ話はそれほど簡単ではなく、一般的にダンピングファクターは10ぐらいは欲しいと言われている。実際のところ、いわゆる真空管アンプは、だいたい2.0前後がいいところなのである。

以下あるのは、現代のスピーカーを駆動するには、ダンピングファクターは370以上のが必要だという論文である。ダンピングファクター370という時の出力インピーダンスは、なんと0.0216Ωになる。



以下のURLにその論文、アメリカのBenchmark社の技術資料が載っています。

https://www.benchmarkmedia.jp/application-notes/audio-myth-damping-factor-isnt-much-of-a-factor/


この論文の要旨は、現実のスピーカーのインピーダンスは、周波数全体に一定ではないことから、ダンピングファクターを高くしなければ出力レベルに凸凹ができてしまうという話である。彼らが実験に使っているスピーカーは、Focal社のスピーカーで、上の図版の中にあるように、周波数帯域内でインピーダンスが激しく変化するスピーカーだ。最大値が3KHzの18Ω、最小値が119Hzの2.6Ωで、これをダンピングファクター10のアンプで鳴らすと、出力音圧に、2dBの差が出てしまう。ダンピングファクター100のアンプだと、最大値と最小値の間での違いは、0.22dBになる。さらに、ダンピングファクター200のアンプだと、0.11dBになると計算で示してくれる。これにケーブルの抵抗値を組み込むと、ダンピングファクター370は必要であるというのがこの会社の主張なのであった。なるほどなー、これじゃダンピングファクター1とか2とかいわれている真空管アンプに、まったく分はないですな。

ところが、その後「JBLの遺産」のページに1967年に出た別の論文を発見。

(と思ったらこの論文へのリンクが、Benchmark社のページの一番最後に「ある読者から、Dick Pierceの記事より約27年前に報告されたダンピングファクターに関する論文のリンクを提供していただきました。」とあり、内容は上記と同じ論文でした。)

https://www.lansingheritage.org/html/jbl/reference/technical/damping-factor.htm

論文1ページ目 論文2ページ目

この論文の論旨は、ダンピングファクターの計算は、スピーカーのボイスコイルの抵抗値を繰り込まなくては正確な計算はできないというものである。なんと、上記のBenchmark社の論文には、このボイスコイルの抵抗値が繰り込まれていないではないか。ということは、Benchmark社は、このはるかに先行する論文を読んでなかったことになる。このGeorge L. Augspurger氏の論文では、8Ωのスピーカーには交流抵抗とは別に、直流抵抗分の6.4Ωがあるとして、この抵抗値を繰り込まなくては計算が正しくないことを論じている。結果、ダンピングファクターを20以上に上げても、ほとんど結果には変化がないと結論つけている。

以下の図が論文からの抜粋の図だ。



論文の最後の段落では、「ここに引用したアンプのダンピングファクターは、確かに重要だが、おおよそ20以下の辺りでの話である。ダンピングファクターを2から20に変化させると、スピーカーのパーフォーマンスも変化する(良くなるか、ならないかは、スピーカー次第)。だが、ダンピングファクター200の方が20よりも良いことを証明しようとしても、うまく行かないだろう。というのは、実効ダンピングファクターの違いが、ここでは、1.25と1.32でしかないからだ。」と、かすかに皮肉の混じった文章である。

さらに続けて、「それでも、徹底的な実験をそんなアンプでやって、高いダンピングファクターのアンプは、10や15のアンプよりも良いと言い張ったとして、それで「ベースの音が、ほんのちょっときれいになって、自然で、拡がった」といったような話にすぎんだろう。それはそれで、たぶんその人にとっては、真実なんだろうが、、。」

そこから、負帰還を使って歪を減らし、アンプの内部インピーダンスをもっと下げるのは、ありがたみがあるかもしれないけれども、それがその天文学的な数値のダンピングファクターのお陰だと信じない方が良い。と書き、数字のマジックを戒めている。

で、問題なのでは、論文の中盤で、「残念ながら、常識を完全に信じるわけはいかないこともあるものだ。一点、ある特定のスピーカーによっては、アンプからの信号を忠実に再現させるために、高いダンピングファクターを必要としないスピーカーがある。いくつかのスピーカーでは、ダンピングファクターが1から3ぐらいの時に、最高のパーフォーマンスを出すスピーカーがある。」と書かれている。では、ここでいう特定のスピーカーとは、いったいどのスピーカーのことを指しているのだろうか?気になるところである。

筆者、Goerge Augspurgerは、もちろんJBL社の人である。自社の製品については特別に詳しいはずだ。JBLの製品に限って、対象となるスピーカーを探してみたいものだが、まず、この論文が書かれたのは1967年なので、対象とっているブツは、当然それ以前の製品であるはずだ。


スピーカー(トランスデューサー)の設計思想

そうなってくると、このころのJBLの製品ラインナップはどうなっていたのかが気になってくる。Dで始まる製品(DriverのDである)が初期の40年代から50年代の製品で、60年代に入ってから、LE(Linear Efficiency)シリーズがカタログに出てくる。それぞれの代表格が、D-130と、LE8Tという型番で呼ばれるスピーカーである。


https://www.lansingheritage.org/images/jbl/specs/home-comp/d130/page1.jpg

D130は、家庭用オーディオコンポにもっとも多く使われたとされ、Fender社がギターアンプに使って以降、音楽産業界でも使われるようになっていく。Greatfull Deadのコンサートでは、Wall of soundと呼ばれる写真のような巨大なスピーカーの壁が作られ話題となったいた。


https://en.wikipedia.org/wiki/Wall_of_Sound_(Grateful_Dead)
https://www.audioheritage.org/html/profiles/jbl/d130.htm

そもそも、D130はJames Lansing本人の設計によるもので、巨大な口径の軽いコーン紙に強力な磁石と大型のボイスコイルを備えて、高い効率を持つスピーカーとして設計されていた。それに対してLEシリーズは小口径で豊かな低音を出そうとするもので、Dシリーズとは、その設計思想がまったく違う。



https://www.lansingheritage.org/html/jbl/catalogs/jbl-catl.htm

1964年のカタログ、12ページ目の説明によれば、「Linear-Efficiency スピーカーは、無限バッファーか、比較的小さいバスレフ箱で、可聴周波数帯域すべてを再生できるように設計されました。」効率を犠牲にして帯域幅を広げた趣旨の文の後、「これは精密工作技術、先端的な磁気回路の設計、巨大なボイスコイル径、さらにこれまでにないストロークの実現で、深い低音再生を、小型のキャビネットで可能にした。」とある。


比較的小さめの箱に入れた、小口径のスピーカーで忠実な低音を再現することは、家庭用オーディオの課題であった。LE8Tは、そこに切り込んだ製品だったのだ。LE8Tでは特別製法のコーン紙に特殊な白色のダンピング材を塗布し、中帯域の効率を落とすことで、スペック上の低域を伸ばすという手法が使われた。この手法は更に進化して、現在では80dB前後のもっと効率の低いスピーカーがあたりまえになっているので、LE8Tの89dBは、今から考えるとむしろ高能率の範疇に入る。



https://audio-heritage.jp/SANSUI/speaker/sp-le8t.html

実際、このLE8Tを組子の箱に入れたSANSUIの製品は、大ヒットしたのである。

その後、この小型化の傾向は、70年代にブックシェルフ型と呼ばれるジャンルを産むことになる。場面はアメリカからイギリスに移るが、その代表格は、1970年代初頭からBBCとロジャースが共同で開発し、1975 年に一般向けに発売されたRogers LS3/5Aであろう。 LS3という型番は番組制作用のモニターではなく、放送されている番組受信モニター用のスピーカーだそうで、スピーカーは局内の壁に取り付けることを前提として設計されており、どのような環境に置かれても同じ質の音が出るように、密閉型で、効率は82.5dBとなっている。想定されているアンプは、30Wから80Wというから、当然トランジスターアンプだったようだ。密閉型では豊かな低音は出ないが、イコライザーで低域をブーストして使うという設計だったらしい。いかにも、イギリスらしい仕様の礼儀正しい音、アルテックやJBLのジャズ喫茶向けの音とは違って、FM放送的な音のするとてもバランスの良いスピーカーである。




僕が入手したLS3/5Aは、Chartwell社製。裏面にはBBCのシールが貼られていて、スピーカー端子がXLR端子に換装されているので、実際に放送局使われていたのだろう。買った時にはシールの色も鮮やかだったのだが、窓際に置いていたおかげで、残念ながら色あせしてしまった。まあ逆に言えば、それまでは日の当たらないところ=スタジオに置かれていたという証左だろう。

このコーン紙を重くする傾向は更に進んで、B&W社のスピーカーの中にはコーン紙の裏側に吸音材を追加し、箱の中の音が前面に出てこないようにする工夫がなされた製品さえもある。ともかく、このLE8Tというスピーカーは、その後一般化する低効率型のスピーカーの原型といって間違いはないだろう。

スピーカーの効率は、SPL(Speaker Pressure Level)と呼ばれ、1W出力の信号を入力し、1メートル離れたところで測られた音圧で表される。カタログスペック的には、D-130は103dB、LE8Tは89dBの効率である。その差の‐14dBを電圧に換算すると5倍になる。つまり、D-130はLE8Tに比べて5分1の電圧で同じ音圧を出すことができる。逆にLE8Tは5倍高い電圧が出るアンプを使わないと同じ音圧がでないということだ。

8Ωで1Wの出力を出すには、2.828Vの電圧が出力できなけらばならないが、この音圧を同じ音圧をLE8Tで出すためには、14.14Vの電圧が必要ということだ。この時には、25Wの出力が必要という計算になる。真空管アンプでこのワット数のアンプがないわけではないが、価格が見合わないということになるだろう。

このように見てみると、対象となっているスピーカーは、1967年時点でのほぼ最新のスピーカーではなく、それ以前の真空管アンプ時代に設計されたスピーカーのことを指しているはずだ。こう考えてくると、その中で抜きん出ているのは、やはりD-130というスピーカーなのではないかと、憶測する次第である。


D-130

D-130というスピーカーは、純粋にJames Lansing自身が設計したスピーカーである。彼自身は、会社が順調に軌道に乗る前の1949年に突如自殺してしまう。大きな借金を抱えていたなど、憶測がいろいろ飛び交っているようだが、いずれにしても、その後JBL社のスピーカーの基本的な設計がどんどんと彼が理想としていたスピーカーの方向とは異なった方向へ向かっていく。彼の理想とは、巨大なボイスコイルを強力な磁界の中で駆動して、大きなコーン紙を強力に動かすことで、過渡特性を最大化するという方向だ。これはアンプの小さな電圧変動にも敏感に反応するスピーカーを実現するための方法であったわけだ。

ところが、その後60年代以降には、小さなスピーカーを求める市場に合わせて、重たいコーン紙を強力なアンプで駆動するという方向へマーケットは転換する。そのきっかけになったスピーカーのひとつが、JBLのLE8Tではないかと思われる。こうした重たいスピーカーを正確に駆動するためのアンプには、当然まず大きな出力が求められ、100W、200Wというアンプが作られたし、そこでダンピングファクターが商品のスペックとして注目を浴びるようになったというわけである。

こう見てくると、James Lansingの死とLEシリーズの間には、なんとも言えない因縁があるように見える。そんな疑問を持った先人がいるので、書かれた文章を紹介しておきたい。岩崎千明氏の文章である。JBLという特殊な、ユニークな会社の歴史には、複雑なドラマが隠されていてもおかしくはない。

「ジェームス・バロー・ランシングの死」岩崎千明

「私とJBLの物語」と題された文章もまた、D-130を語らせて、素晴らしい。


要するに、現代のスピーカーとアンプ関係が、メーカーの生き残り策として、マーケットを動かすためのスペック追求に走り過ぎたことで、音の再現という本質を忘れてしまったのではないだろうかと思う次第である。スペックの高い、測定機のようなスピーカーでどれほど音楽がつまらなくなったのか考えて欲しい。スピーカーは、楽器のようであって欲しいと思うのだ。

その意味で、50年代以前に設計されたJBLのD-130というスピーカーを鳴らすには、ダンピングファクターの低い真空管アンプが必須であり、自由に低域をいじれるトーンコントロールは必須なのである。





2023年4月25日火曜日

6AU6+6AQ5のチューンアップ

 6AU6+6AQ5のチューンアップ


どこをいじっても音が変わるのが、真空管アンプの楽しいところなので、理由はともかく部品を交換してみたら、どうでしょうか?




コンデンサー

1)初段と終段の間をつなぐコンデンサー

いわゆるカップリングコンデンサー。初段のプレート電圧が次の終段のグリッドに流れ込まないように、DCをカットする機能がある。なので、まずプレート電圧に耐えられる十分な耐圧を持ったコンデンサーが必要。容量は次に来るグリッド抵抗との組み合わせで低域の時定数を構成するので、大きくすると通過する低域周波数が下がる。小さくすると低域がカットされる。まず、品種ではなく値を変えて変化を確認すると良い。

Marantz 7に使われていた、Bumble Bee、Black Beauty。MullardのMustardなどが、ヴィンテージとして有名だが、どれも異常に高価。

上の2つ:SpragueとPyramidのオイルペーパーコンデンサー、プラスチックに封印してある。下の3つ:MullardのMustard、ASCとEROのフィルムコンデンサー。



耐圧の計算方法:前段のプレートにかかっている直流電圧に交流信号の振幅を足した分までの耐圧が必要です。6AU6+6AQ5の場合には、6AU6のプレート電圧は127Vです。6AQ5のカソードバイアスが14Vなので、最大でプラスマイナス14Vの音声信号がこれに加わります。127V+14V=141Vが最低限必要な耐圧。ただし、なんらかの事故、例えば前段の真空管無しで電源を入れた場合は、+Bの電圧が直接かかることになるので、実際にはプレート電圧ではなく、+B電圧までの耐圧は必要。これでいうと294V。まあ、耐圧は350Vは確保したい。

低域の時定数の算出:このコンデンサーとグリッド抵抗によってできるフィルターは、低域をカットするフィルター(ハイパス・フィルターとも呼ばれます)として働きます。1オクターブ辺り−6dBの傾斜のカーブで、カットオフ周波数(−3dB下がった場所)は、以下の計算で算出できます。

Fc = 1 / (2π・R・C)

例えば、抵抗が1KΩで、Cが1uFの場合は、

Fc = 1 / (6.28 ・1000Ω ・0.000001F)

 = 1 / ( 0.00628 )

 = 159.235 Hz

実際に使われている抵抗は470KΩ、コンデンサーは0.033uFなのでカットオフ周波数は、

Fc = 1 / (6.28 ・470000Ω ・0.000000033F)

Fc = 1 / (6.28 ・0.01551)

Fc = 10.266645312044418 Hz

となっています。面倒な人は以下のURLで計算してくれます。

http://sim.okawa-denshi.jp/CRhikeisan.htm

Cの容量を増やすと、通過する低域は下がりますが、それなりの弊害もあります。試しにCを減らしていくと、逆にスッキリとした音になることもあります。

コンデンサーの種類や製造会社によって音が変化するのは、コンデンサーの共振周波数が関係しているようです。共振周波数を可聴帯域の外に持っていくというのが課題のようです。



2)カソードとアースの間をつなぐコンデンサー

自己バイアス回路には必須のコンデンサーで、カソードの位置を交流回路的に、アースに落とす役割を負っている。耐圧はカソードバイアスの2倍から3倍あればよい。容量を増やすと低域が伸びる。普通は電解コンデンサーを使うが、OSコン等のESRの低い高分子電解コンデンサーを使うと音がすっきりすることがある。フィルムコンデンサーも有効。

逆にこのコンデンサーを外すという方法もあって、外すと交流信号の行き場がなくなり元に戻ろうとして帰還がかかる。出力は下がるが、音の質が変わる。

左2つが、低ESRの高分子電解コンデンサー、あまり高い耐圧のものがない。
右はPhilipsのチューブラー型電解コンデンサー。

耐圧の計算:カソードバイアスの抵抗値は、自己バイアスで真空管を運用する上で、バイアスを決定する重要な部品である。われわれのアンプでは、初段が1.8V、出力段が14V。そこを基点にして、プラスマイナス分の音声信号(交流)が流れるので、結果的にカソードバイパスコンデンサーは、自己バイアス電圧の2倍の耐圧は絶対に必要になる。




3)電源整流回路のコンデンサー

整流直後のコンデンサーは重要な役割を負っているので、ここをいじるとなんと音がいろいろに変化する。昔の真空管アンプでは、ここの定番はオイルコンデンサーだった。四角いグレーの箱の形したあれ。

その後複数のコンデンサーがひとつにまとめられているスプラグとかマロリーの電解コンデンサーが多用されたが、アースが一点にまとめられてしまうので、音質上は問題が多い。

最近の流行りは、ここにオイルフィルムコンデンサーを使うことで、エアコンなどに使われているコンデンサーが部品屋でよく売られている。そもそもリプルを取る目的のコンデンサーなので、ハムも減るし、ESRが低くなることで、電源回路のインピーダンスが下がる効果がある。結果的に音がなめらかになり、ディティールが聴こえてくるという効果がある。100uF500Vといった規格になると大変に高価。

左が、Spragueの複合電解コンデンサー、取り付け形状がリムロック。中央が中華製のエアコン用フィルムコンデンサー。右がSolenのオーディオ用フィルムコンデンサー。

すでに使われている電解コンデンサーに少量のフィルムコンを並列に追加するだけでも、効果はある。おそらく追加したフィルムコンの分だけESRが下がるからではないだろうか。





抵抗器

1)グリッドの手前に入っている抵抗器

グリッドは、そもそもインピーダンスが高い場所なので、外部からのノイズが入り込みやすいので、いろいろな形でプロテクトしてあげる必要がある。次段のプレートからの信号線も短い方が良いが、グリッドの直前に10KΩから1KΩ程度の抵抗を入れて、ノイズのゲインを下げると効果がある。抵抗値には回路によって最適値があると言われているが、どの記事を読んでも試行錯誤するしかないと無責任にかかれている。多分、当人が苦労しているから、教えなくないのだろう。


2)初段のカソードバイアス用の抵抗

バイアス値は、真空管を計画通りのバイアスをかけるために重要なのだが、初段で発生した2次歪が、終段で逆向きの2次歪と出会うために、運が良いとそれらが打ち消し合うことがある。そこで、入力に1KHzを入れておいて、このカソードバイアスの抵抗値を動かして行くと、2次歪が下がる場所が見つかることがある。


3)負帰還の抵抗

負帰還の抵抗値を変えると当然だが、いろいろに変化する。ギターアンプのブライトといったツマミは、この負帰還量を増やして歪を下げるようになっている。自作のアンプなのだから、ここを可変抵抗器にするのは楽しい。






2023年4月24日月曜日

リプルフィルターの設計方法


リプルフィルターの設計方法

+B電源由来のハムは、きちっとリプルフィルターの計算がしてあれば、チョークを入れなくても、出力で1mV以下にすることは可能である。

1)整流直後のリプルがどれぐらいあるのか、まず知る必要がある。ぺるけさんの以下のページに、ぺるけさん独自の計算用のグラフがある。「整流直後の残留リプルは、「負荷抵抗(RL)」と「平滑コンデンサ容量」とでほとんど決定されてしまう、」とあって、必要な値は、RL=(取り出す電圧/電流)と整流直後に使うコンデンサー容量である。整流直後のコンデンサーの値の大きさが非常に重要になるが、整流管を使った場合にはそれぞれの整流管によって限界値があるので注意する。

ぺるけさんのページ

でも実際には、電源回路部分を仮組みしてみて計測するのが筋。


2)元々のリプルの量が判ったら、そこからどれぐらいの割合を下げればよいか計算して目標値を決める。メインアンプで1mV前後まで落とせれば、効率高い100dB並のスピーカーでもハムはほとんど聴こえなくなる。


3)その目標値に向かって、RCフィルター(あるいはチョークを入れてRLCフィルター)の値を計算する。両波・全波整流は100Hz、半波整流なら50Hz時の減衰量を求める。フィルター1段では届かない場合は、2段設けて掛け算する。


・設計があっていてもうまくいかないのは、実装が間違っているからだろう。回路のどこかに浮いている部分があるとか、アースラインがループを形成していないかよく見る。

・特に両波整流用トランスの中央端子の扱いが問題になることがある。ここはシャーシにすぐに落とさないで、信号回路のアースラインかできるだけ離すように工夫する。

・忘れがちなのは、ヒーターラインのアース。AC点火の場合には、素直な50Hzのハム。初段のハムが増幅されている場合がある。

2023年4月12日水曜日

ハムとノイズ、原因と排除方法

ハムとノイズ、原因と排除方法


1)B電源由来のハム

 両波整流、全波整流は、100Hz、片波整流、倍電圧整流は50Hz。音を聴いてハムの発生源を推しはかることが可能。50Hzでも正弦波とスパイク状になった波形では、音はまったく違って聞こえる。

・電源回路のグラウンド基点をどこに取るか、音声信号のグランド基点をどこに取るか、それぞれの信号が交差しないようにする必要がある。例えば、一点アースしているはずなのにいくらリプルを取る対策をしても消えない場合には、一点アースを音声信号が通過している場合がある。

・整流後の一発目のコンデンサーの選択が以外と重要で、ともかくその後のリプル除去作業を楽にする。リプル除去能力の高い、電源リプル向け電解コンデンサーを使う。フィルムコンやオイルコンが、よりベスト。

電源回路のインピーダンスを下げるとノイズが全体的に下がるという効果がある。低ESRコンデンサーで高耐圧のものは存在しなしが、電解コンの並列化で抵抗値を下げることができる。

・整流直後のリプルがどれぐらいあるか把握してから、パイ型フィルター、あるいはチョークフィルターに使うコンデンサーの容量を計画する。「リプルフィルターの設計方法」を参照。


2)ヒーター電源由来のハムは、ACでは50Hz。ブリッジ整流したDCでは100Hzになる。

・メインアンプで使っている真空管が傍熱型である場合には、普通は、ヒーターをDC化する必要はない。

・重要なのは、ヒーター電源のグランドをどのように取るか。使う真空管の内部構造も影響する。双三極管には、2つの三極管の間にシールドが入っている物がある。シールドをグラウンドに落とす必要がある。アースは信号用アースではなく、影響の出やすい初段近くで落とす。

・真空管ソケットのセンターピンは、主に高周波用のアースなので可聴帯域を扱うアンプでは重要ではないが、アースにつないである方が安全。アースは信号用のアースではなく、近所のグラウンドにつないでおく。つないでおかないと宙に浮いた金属がアンプ内に存在することになり、ノイズを拾う可能性がある。

・自己バイアスの場合には、ヒーターとカソードの間で電流の飛びつきが起こることがあり、ヒーター・グラウンドをカソード・バイアス値まで持ち上げるとノイズ低減に効果がある。


3)電磁誘導のハム

 電源トランスから、出力トランスや入力トランスへ、磁界を通して乗り移るハム。たいがい、きれいな50Hzの正弦波。トランスの向きや位置を変えるか離す。磁場を通さない金属でシールドされたトランスに変更するしかない。銅板を巻きつけた静電シールドは、電波ノイズを抑制することができるが、電磁誘導によるノイズには対応できない。


4)静電誘導ノイズ

電源トランス自身がノイズ源になる。トランスに銅板を巻きつけた静電シールドは、ノイズ源の抑制に役立つ。シリコンダイオードから、またACケーブルからも静電ノイズが出る。AC電流が流れているケーブルを徹底的にツイストすることによって抑えこむことができる。信号線には、シールド線を使うことで音声信号への紛れ込みを低減できる。


5)外来ノイズ

 現代の生活環境は、ケータイ電話やコンピュータから発生する高周波ノイズにあふれている。周辺の電熱器や蛍光灯などからも低周波ノイズが紛れ込んでくる。外部からの高周波ノイズは、AC関連インレットにEMI対策を施したものを使うことで低減できる。低周波ノイズは、回路内にアンテナができているいて拾っているケースがある。アンテナができていないか観察する、あるいはシールドする。

・ボリューム位置の中間で、出てくるノイズは、ボリューム位置によって回路のインピーダンスが変化し、アンテナになっているために起こる。ボリュームのケースをアースに落としたり、アンプケースそのものを蓋をしてシールドする。

・金属的に導通していない金属部品があると、それがアンテナとなって、ノイズを拾う。最終手段は、アンプ全体を金属で覆って、シールドする。


6)マイクロフォニック・ノイズ

真空管特有のノイズ。管内の構造そのものが空気振動などを受けて、エコーのようなノイズを出す。

・真空管そのものをミリタリースペックなどの高品質なものに交換する。

・ゴムダンパー等によって、躯体から真空管を浮かして、環境の振動が真空管に伝わらないように工夫する。管の周りにシリコンのゴム輪を被せる。


7)熱雑音

 回路内の抵抗器や真空管自身が出すノイズ、暖まると出てくる。抵抗器は値が大きいほど、ノイズは大きい。インピーダンスが高い回路ほど大きくなるが、真空管アンプはそもそもインピーダンスが高いので、注意が必要。

・次段とのインピーダンス接合を工夫することによって、ノイズレベルを下げることができる。カソードフォロワーを入れたり、アウトプットトランスをいれるなど、。

・NFBによって、負帰還ループ内で発生したノイズレベルを下げることができる。

・そもそも、アンプ内の温度の上昇を抑える。ファンの追加、空気の流れを作る。放熱板、放熱フィン等を真空管に取り付ける。全体の消費電流を下げて発熱そのものを下げる。

・抵抗器をオーディオ用のものに交換する。


8)モーターボーディング

 3段以上のアンプでは、+B電源のラインを経由して、非常に低い周波数の発振が起こることがある。出力段の+B電源ラインは、音声信号の大小によってやや多めの電流が消費されるので、それに合わせて電圧が揺れている。つまり、+Bの電源ラインでも音が鳴っているのだ。この揺れが初段の+B電源に届くとそれが入力信号に付加されて、ループができてしまい、発振する。2ヘルツとは、低いもので、ボツ、ボツとスピーカーが前後に揺れて、飛び出して壊れそうになるものだ。

特にプリアンプなど、高い増幅率の場所で起きやすい。

各段の+B電源の分離がうまく行われていない場合に、別の段の+B電源に交流信号が流れ込むことが原因である。+B電源に入っているコンデンサーのことを、デカップリング・コンデンサーと呼ぶのは、そのためである。モーターボーディングが起きないまでも、このフィードバックによって、ハム音が増大している場合もあるので、要注意である。

・各段のデカップリングコンデンサーの容量を増やす。そもそも、付けていなかったということもあるのでは?

・+B電源を出力段から、その前の段へ、またその先の段へと引き継いでいる場合には、初段の+B電源を次段から取らずに、出力段から取るなどの対策がある。







2023年3月19日日曜日

Heathkit A-7Eのレストア

 


Heathkit A-7E

戦後のアメリカで軍放出の電子部品をキットにして売るというHeathkit社のアイデアは時代の波を読んでいた。1947年に発売したO-1というオシロスコープが大ヒット、その後はアマチュア無線機、各種測定器、そしてオーディオ用アンプなどが発売された。A-7シリーズは、1948年発売のA-1から数えて7代目のアンプであるが、同時期に上級クラスにWilliamsonタイプの回路を組んだWシリーズがあった。W-5MやW-6Mは、今でもオークションサイトで結構な高値で取引されている。

2020年にロスアンゼルスに滞在した時に、音楽を聴きたくなって、eBayで中古のアンプを物色して、A-7を2台落札した。現地で修理してステレオで使っていた。真空管が全部揃っているし、トランスとシャーシだけでも、当時のデザインがヴィンテージとして興味深い。




2台はまったく別々の出品者からの購入。そもそもキットなので、構成部品が微妙に違う。写真はとりあえず聴けるようにレストアした時の内部。これで結構いい感じで聴いていた。

シャーシ上に立っているアルミの電解コンデンサーは使わずにそのまま残して、シャーシ内に新品を入れた。カップリングコンデンサーの多くは、Sprague社のペーパーオイルコンが使われているので、一応状態をテスターで測った上で、そのまま残してある。回路は、6V6のヒーター電圧違いの12V6を使ったプッシュプル、位相反転と前段が12SN7GTAの直結、12SQ7がトーンコントロール段、12SL7GTAがイコライザー段に使われている。左の躯体にはレコード用のイコライザー部分がギターアンプ用に改造されていて、追加で電源コンセントとエレキギター用の標準フォンジャックが追加されていた。まあ、そもそもキットなのでユーザーがかってにカスタマイズしているわけだ。



eBayで別途買ったA-7Eの説明書の実体配線図のページ。もの凄く丁寧な説明書で、特にこの実体配線図は描かれたそれぞれの部品の姿に愛があふれていて、惚れ惚れする。こうした配線方法は日本語で「空中配線」と呼ばれているが、英語では「Point-to-Point」で、最短距離を結ぶという意味がある。適当なレイアウトに見えて、意外と良く考えてあることがわかる。驚くことにAC電源の入り口にヒューズが無い。1950年の電源事情とは、そういうものだったのであろう。アースの取り方は典型的な「一点アース」である。とはいえ、部分的には電解コンデンサーのところが一点に集まっているので、回路段ごとが切り分けできない。これも時代だろう。

SP盤からLP盤への移行期

A-7シリーズは、A-7Bが基本形の12A6のプッシュプル、次のA-7Cは初段にプリアンプが追加されており、マイクロフォンあるいはクリスタルカートリッジの取り付けができるモデル。その後A-7DとA-7Eが出た。Dが基本形、Eは初段がマイクインプットではなく、RIAAのイコライザーカーブを持った回路に変更されている。このモデルチェンジの時期は、ちょうどモノラルからステレオへの移行期にあたっているので、商品構成が微妙に変化していった時代だ。




当時の雑誌広告から、左がA-7Bで、右がA-7D。右の広告には1956年のカタログ無料配布の告知が見える。RIAAのイコライザー・カーブがアメリカレコード工業会によって制定されたのが1955年なのでそれに答えるようにモデルチャンジされたのではないだろうか。

このモノ構成のA7シリーズは、ラジオ放送やモノラルレコード向けに販売されていたようで、ステレオを聴くためには、後から追加でもう一台購入したというケースもあったようだ。実際に入手した一台は、このイコライザー部分が手際悪くギターアンプ用に改造され、標準フォンジャックが追加されていた。ステレオ用のアンプに移行してから、使っていなかったアンプをエレキギター用のアンプに改造したのかもしれない。


eBayで買ったA-7Eの組み立て説明書の回路図のページ。書き込みは、購入した2台の躯体とはまた別人物のものだが、真空管を6V6に変更して、イコライザーをNFB付きのラインアンプに改造している模様で、ヒーターのアンペア数を計算している。ヒータートランスを追加するつもりなんだろうか、。ヒースキット社とやり取りした手紙も一緒になったまま落札した。


イコライザー段の改修工事

今年に入って(2023年3月)、イコライザー部分を回復して、レコードを聴けるようにしてみた。回路構成は、12SL7GTA一本のCR型イコライザーで、調べてみると当時のRCA社 Radio Tube Handbookに載っている回路そのままのコピーである。CR型よりもNF型のイコライザーの方が一般的であると思っていたのだが、おもしろいことにこの50年代のRCAのHandbookには、NF型のイコライザー回路は載っていない。


1959年発売のRCA社Receiving Tube Manual(RC-19)掲載のRIAA用イコライザー回路。1956年版のRC−18にはRIAAの参考回路は掲載されていない。

回路に使われているCRの値がA-7EのEQ回路とまったく同じだ。RCA推奨の回路図に使われている7025は12AX7Aの高信頼度管でともにμ100。ところが、A-7Eで使われている12SL7GTAは、μが70しか無い真空管である。この増幅率不足の真空管で同じ回路を組むのは無理がある。更に問題なのは、カソードに電流帰還がかけてあるので増幅度はさらに下がっている。これでは、特に低域が十分には出ない可能性が高い。さらに、ヒーターも12.3V、ACのままなので、ハムと雑音でレコードを聴くには、ボリュームをあまり上げられなかったのではないだろうか。できるだけ改善しよう。



まず一台の部品を全部撤去(左)してから、現代の部品で組み立て直した(右)。

途中写真撮らなかったので、突然の完成写真となってしまった。

AC電源電圧が115Vで設計されているために、そもそも当初の+B電圧(390V)が出ない。外部に100Vを115Vに上げる昇圧用のトランスを使うという手もあるが面倒なので、残念だが整流管をダイオードに変更してみた。AC電源の電圧差15Vがちょうど整流管によるロスと同じ程度だったようで、+B電源が設計時の電圧390Vに10V足らないが380Vになった。

あらためて、6V6の規格表を見てみると、驚いたことにプレート電圧の最大定格は315Vと書かれている。390Vもかけて大丈夫なのだろうかと疑問に思って調べてみたのだが、どうもギターアンプの回路図には、出力ワット数を稼ぐという目的から、AB級の高電圧での運用事例が多数でてくることがわかった。これは規格書には載っていない運用事例だ。

FenderのDelux Reverveではプレート電圧391V、グリッドバイアス−39V、Princton '65 Reverveではプレート電圧440V、グリッドバイアス−40Vに設定されている。ただ、これらは1964年頃にリリースされた製品なので、このA-7の方が遥かに先に発売されている。一体誰がこのAB級動作を発見したのだろうかが、ちらっと気になってきた。

現実的にAB級動作は流す電流が少なくて済むので、電源トランスの容量も小さめで済む。しかも、これでA級プッシュプルでは13W程度が限度のところを、20Wまで出力を上げることができるという訳で効率的だ。

電源には、40uF、30uF、20uF、20uFが一本に組み込まれた複合型のコンデンサーが回路図には示されているが、驚いたことにこの躯体には40uFと30uFしか組み込まれていないコンデンサーが使われていた。不足分のコンデンサーはどうしていたのか不明。まあ、50年代には良質の電解コンデンサーがまだ多くなかったという事情もあるのだろう。

そこで、手元にあった形の合うコンデンサーとして、Mundolf社製の500V耐圧200uFx2という、えらく豪華なコンデンサーを使った。その他の部品はすべて現在手に入るものを使った。

ライン入力に関しては、ボリュームを上げてもまったくノイズが聴こえない状態にまで仕上がったのだが、フォノイコライザー入力に切り替えると、ボリュームを上げるに従って、50Hzのノイズが結構盛大に聞こえてくる。ボリューム半分ぐらいまでは我慢できるが、それ以上はちょっと耐え難い。傍熱型のヒーターとはいえ12VAC点火ではやはりハムが残る。12VのAC/DCアダプターを使ってヒーターをDC駆動することにした。これでレコードも快適に聴くことができる。

それでも、ボリュームの中間位置でノイズが出る。ボリュームの次に来る真空管のグリッドが浮いて来るからだ。いろいろやったんだが、シールドするためにアルミの底板を追加することにした。昔は、現在のように環境ノイズが大きくなかったんじゃないだろうか?携帯電話しかり、Wifiの電波しかり、さらにはコンピュータ等のデジタル系の高周波ノイズが満載で、この環境は音楽を聴くには向いてない。高感度の回路には、シールドが必要だ。


少し専門的な話

50年代の真空管アンプがどのような配線をされていたのかに、ちょっとした興味があった。特にアースラインのとり方である。結果的には電解コンデンサーの問題で、この配線方法では、信号系とバイアス系のアースの分離がうまくいっておらず、ハムもノイズもこれ以上は下がらなかっただろう。60年代に入ってくると、スピーカーの効率がだいぶ下がってくるので、この程度のハムは許容範囲になりつつあったのかもしれない。というわけで、レストアした躯体は、ほぼ完全にノイズとハムは駆逐した。

6V6という真空管は、出力がそれほど取れないことと、その直後に出てきた6L6に押されて人気が今ひとつなのだが、割と簡単に良い音の出るアンプを作ることができる自作向きの真空管である。その魅力の秘密をいろいろ探って来たのだが、それは2次高調波と3次高調波の出方にあるように思う。真空管をシングルエンドで使うと、2次高調波が主になるが、出力を上げていくと、どこかで3次高調波と入れ替わるものである。どこで3次高調波に入れ替わるかが、真空管の個性のようだ。この6V6という真空管は、じつは他のビーム管に比べて、比較的早めに3次高調波に入れ替わるのである。ここに秘訣があるように思う。


2023年3月1日水曜日

メーカーが違うと、。


同じ型番で、同じ規格の真空管でもメーカーによって、やはり音が違う。

バイアスポイントもプレート電圧も同じに出ても、やはり音が違う。

「違わない」と言っている人もいるが、やってみると、やはり音が違う。

使われている金属の材質で、電気的な規格が同じでも出てくる音に違いがでるらしい。製品の質を検討する段階で、出てくる音を気にする人がひとりいるかいないかの違いなんじゃないだろうか。回路的に高い負帰還をかけてゆくとこうした違いは聴き取りにくくなっていく。その違いがわからないのなら、真空管アンプなんか作っている必要はないんじゃないかな。

写真は、171Aとか、71Aと呼ばれる直熱管。1925年発売で、本来はバッテリー駆動用だった。探したら8本ほど買ってあった。ほとんど全部が、RCA,Cunninghamだったけど、一本だけVolutronという銘柄だった。ゲッターの色がRCAと違う。たぶんマグネシウム。実際に使ってみるとこの真空管では何か物足りない。

2A3のアンプを作っている時も、回路の検討をずっとHaltronの2A3でやっていて、どこまで行ってもなんか物足りなかった。ふと思ってRCAの2A3にしてみたら、全然違う音がする。「こりゃいったいどうなっているんだ。」と思ったものだ。

WE407Aを使ったプッシュプルアンプを作った時も、当初は、RCAとTungsolで組み立て作業をやっていた。仕上がったあたりで、Western Electric製に交換したら、もうRCAもTungsolも不用品となってしまった。

音が違うわけについては、憶測する以外にないので、考えることはやめにするが、やっぱり違うのである。


2021年3月15日月曜日

Miller effect

ミラー効果というのは、アンプ内の静電容量がその増幅率との関係で拡大されてしまうことにより、内部抵抗との組み合わせでローパスフィルターが形成してしまい高域特性が落ちることを言う。元の容量が、(1+増幅率)倍されてしまうのでアンプの増幅率が高いほど効果は強い。


     <図が欲しい。>


実際に製作した6AU6+6AQ5のアンプを例として使う。


6AQ5の原型にあたる6V6の規格表では、入力側から見てプレートまでとカソードまでの両方を足して、9pF、あるいは10.5pFとなっている。では、6AQ5ではどうなのか。


規格表では8pF、幸いMT菅の方が静電容量は低い。ここでEp-Ip曲線上で、プレート負荷を5KΩ、プレート電圧を250Vとし、グリッドバイアスを12.5Vとした時のおおよその増幅率がだいたい20倍とすると、実効の内部静電容量は、8X(1+20)=168pFとなる。


6AU6の規格表のA級動作の部分の切り抜き。プレート電圧100Vの項目を見ると、内部抵抗が0.5MΩになっている。これをそのまま鵜呑みにするわけにはいかないが、まあデータとして扱ってみるとして、これにプレート負荷240KΩ、次段のグリッド抵抗470KΩが並列に並んで接続されたことになる。見かけのインピーダンスは、以下の計算で、120KΩ。

1/((1/500K)+(1/240K)+(1/470K))=120.564KΩ

さっそく、120KΩと168pFによって形成されるクロスオーバー周波数を調べてみる。計算方法は、159÷(コンデンサ容量X抵抗値)。

159/(0.000000168Fx120000Ω)=7886.9Hz

となった。なんと7.8KHzで-3dBの減衰!。実際に製作した最初のアンプで計測した時は、10KHzで−3dB落ちであった。ちなみにクロスオーバーポイント(-3dB)を、60KHzに持っていこうとすると、159/(60000x0.000000168)=15773.8Ω。15KΩまで初段のインピーダンスを下げなくてはならないことになる。そのための方策は、4つほど考えられる。

出力段をドライブできる範囲で、初段の負荷抵抗をともかく下げるわけだが、。
1)内部抵抗の低い三極管接続にする。
2)初段のプレートからグリッドに負帰還をかけて内部抵抗を下げる。
3)五極管を電圧増幅ではなく、電力増幅的に扱って、負荷抵抗を下げる。
4)カソードフォロワを初段と出力段の間に追加する。

などが考えられる。<追加編集中>








2021年3月13日土曜日

6094(6AQ5) + 6AU6


2019年に数人の友人たちといっしょに真空管アンプを製作した。あまりお金をかけずに真空管への理解を深められるようにと考えて、A級シングルエンドにすることにした。シングルエンドアンプは、初段がHiμの三極管で出力段を五極管にするというのが一般的で、12AX7Aに6BQ5(EL84)というのがなんとなく標準形態である。三極管と五極管の両方が一本のMT管に入った6BM8(ECL82)やそのハイファイ版といわれる6GW8(ECL86)といった複合管もキットではよく使われてきた。ECL86には、ヒーター電圧の13.3Vの14GW8(PCL86)というのがあって、これを使ったキットがポピュラーである。2段構成で、出力管をEL34や6L6といったGT管にすると、いかにも「真空管アンプ」という風貌になるけれども、さすがにひと回り価格も上がるし、音のいいとされる真空管はどれもがすでにヴィンテージ扱いになっていて、信じられないような価格である。

気楽にという点では、歴史の長い6V6が良いと思うのだが、かっこいいコークボトル型の6V6はeBayで探しても稀だし、NOS(使われていない新品)ともなると、すでに博物館入りに近い状態だ。特にギターアンプとしての需要が昔からあり、音質を求めるギタリストによって消耗品のように使われてしまったのだ。しかし、1940年に同じ規格のMT管(6AQ5)という真空管が作られていて、戦後製造されたラジオやテレビの音声増幅に多用されたが、1953年に出てきた6BQ5(EL84)という真空管がオーディオ用途を歌って登場したために、それに押されてオーディオ関係ではあまり注目されない真空管となってしまった。というわけで、この真空管は6V6由来の音質を持つ真空管であるにも関わらず安価で手に入るのである。
出力管をドライブする真空管に12AX7Aといった三極管が多用されるのは、この真空管がそれまでにはなかった高利得と低ノイズを実現した画期的な設計であったためだ。しかし、実際に使ってみると音の存在感が若干希薄であるように思う。使う時には、内部抵抗が高いので出力管の内部容量との関係をよく見定めないといけない。プリアンプには適しているかもしれないが、出力管をドライブするのは電圧だけではないので、もうちょっと電力があった方がよいように思う。
こういった真空管素子の欠点を回路デザインでカバーするとか、真空管をやめてMOS-FETを使うとか、現代的な創意工夫はいろいろあるだろうけれども、あまりやり過ぎると、どこまでが真空管らしさなのかがわからなくなる。ここはやはりもっともオーソドックスな素子で、なんの特徴もない回路で行きたいところである。

            加工をお願いしたシャーシが届いたところで、部品の配置を確認中。


     塗装してから、まず電源関係から部品を配置。サブシャーシを工作中。

そこで選んだ初段管は、6AU6という五極管。やはり戦後のラジオ、電蓄に多用された真空管で、規格的には銘球とされているEF86(6267)とほぼ同等の真空管である。ただ、フィラメントの構造によってノイズが多いとか言われているが、微弱な電流を扱うイコライザー回路ではないので問題ないだろう。しかも、在庫が豊富なので安価に手に入る。また、初段も出力段も五極管にしておくと、それぞれをを三極管接続に改編できるので、アマチュアらしい楽しみが増えるだろうというわけである。

初段管、三極管接続(小豆色)と五極管接続(ピンク色)の周波数特性

はじめに、初段管をどういう接続にするか検討するために、2種類組んでみて周波数特性を計測した。高域特性がずいぶん早くから落ちているのが判る。マイナス3dBで40KHz、10KHz。この時の三極管動作はプレート負荷20KΩ、プレート電圧180V電流4mA。五極管動作はプレート負荷240KΩ、プレート電圧140V電流0.5mA。初段管の出力インピーダンスを下げる工夫が必要。出力管はUL接続しているので、ここで出力段のインピーダンスが下がっているという問題もあるようだ。これは「ミラー効果」と呼ばれる真空管アンプを設計製作する人の間では既知の問題だ。真空管内に見えないコンデンサー成分があり、またこれが増幅率によって大きくなってしまうために、前段のインピーダンスとの間でローパスフィルターを形成してしまうのだ。これについては別項で詳しく書いてみたい。とはいえ、音はトランジスタアンプにはないテクスチャーがある。この段階ですでに、みんな真空管アンプが気に入った模様。


2019年段階での最終的な回路図。

最終的には、初段は五極管接続で、出力段プレートから初段カソードに負帰還をかけている。電源は購入できたトランスによって、ブリッジ整流と倍電圧整流がある。出来上がって聴いてみるとやはりなんらかの差があるもので興味深い。倍電圧整流の方に分があるように感じられる。カソード・バイアス抵抗のグラウンドラインと音声信号系のグラウンドラインを分離するように配線してある。出力段はUL接続のままだが、後にここは五極管接続の方が好ましいという判断に至った。


赤が負帰還無し、黄色が負帰還-4dB(24KΩ)、黒が-負帰還8dB(12KΩ)の周波数特性。

歪率測定結果。左から負帰還なし、-4dB、-8dB、-16dB。

周波数特性的には、-4dBの負帰還で、60KHzまで伸びているので、一応これで十分だと思われる。負帰還を増やしてゆくと次第に、100Hz、1KHz、10KHzの3つカーブがきれいに揃ってきて気分がいい。歪も次第に減ってくるのがわかるが、同時に最大出力が下がってしまう。また、なぜか-8dBから、-16dBになって歪率が下がってゆかない。これには別の原因があるのだろう。音的には負帰還を掛けるほどに、真空管アンプらしい元気の良さは失われていって、その分繊細な音になってゆくのは事実。今どきは歪率の低いアンプはいくらでもあるので、自分なりに気に入った歪を持ったアンプを作り出すのが、真空管アンプ自作の妙味というものだ。




外装の無い剥き出しのトランスばかりが5つも内部に詰まった構成。安く上げながら、デザインもよくするための工夫するのは楽しい。この写真は途中段階のもので左右の構成が異なっている。

当初使用した出力管は、6AQ5, 6005などSilvania製だったが、GEのものを購入してみたりした。その後、Bendix製の6094なる真空管の存在に突き当たり、ついにeBayで購入。この話は別途。










2021年1月16日土曜日

1920年代のラジオ用トランス


 以下は、1921年版のRCAのカタログである。Radio Corporation America=RCAが、戦前から技術提携していたイタリアのマルコーニ社の技術をもとに、北米に設立されたのが1919年、RCAが放送局(NBC)を開設するのが1926年である。1921年の時点でラジオ放送局はまさに群雄割拠で、合併分裂を繰り返していた。

この時代の真空管の主たる使用目的は、電信、電話とラジオである。電話技術はグラハム・ベルの起こしたATT社によって独占されていたが、ラジオの受信機は一般大衆の自作が主で、そのための手引きが公開されていた。このカタログがそれであり、実に詳細に解説されている。

この時代の真空管は増幅率があまり高くないために、使い方に工夫が必要で、とりわけトランスが非常に重要であった。以下のアンプの回路では、トランスで昇圧した音声信号に、真空管で電力を与えてから、次のトランスでまた昇圧している。この回路では昇圧比の高い段間トランスは必須だったのだ。

下のページはラジオの回路図で、真空管の間にUV-712という型番が見える。上に掲載した写真に見える黒いトランスがこれである。

回路は、受信したAM変調信号を、検波によって音声信号にした後に、増幅してイヤホンにつなぐものである。いったい、このトランスは、現代のシステムの中に組み込むと、どんなことになるのか、作って聴いてみるしかないというのが、工作の動機である。

このトランスの規格は、1:9の巻線比、60Hz~3KHzが使いシロ、電流は10mAまで、電圧は300V、直流抵抗値は1次側430Ω、二次側5.1KΩ。1KHz時の各インピーダンスは、2次オープン時の1次が19KΩ、2次ショートで650Ω、2次のインピーダンスが1次オープンで1.4MΩ、ショートで43KΩとなっている。

以下は、一次側600Ωで、二次側のシャント抵抗を付け換えて、実測した周波数特性である。2次側オープンだと10KHzにピークができているが、112KΩでシャントした特性はかなりいい感じのカマボコ型の特性だ。39KΩではさらに狭まって、ゲインも落ちてしまう。

このハイカット、ローカットの特性は、CRで作ったフィルターとはかなり違った振る舞いをする。CRフィルターでは単にその周波数が欠損するという感じだが、トランスでは感覚的にはエネルギーが中心に寄せられるという感じがするものである。


2021年1月13日水曜日

より良いものを作るには、感覚を研ぎ澄まさなくてはならない。また既知の知見を集めることも重要だ。知見は、文字に書かれた情報だけではなく、実践がともなっていなければならない。さまざまな情報、図とか、動画とか文字情報以外の情報があるわけだが、それでも実際にやってみないことにはその真意はわからない。できるというのは、頭ではなくて、からだで体得するものだ。

資本主義の発展の中では、すべての人は消費者にされてしまったが、与えられたもの=商品を「買って使う」よりも、「作ってみて知る」ことに意義があるはずだ。戦後日本に自作文化が根付いたのは、貧乏で買えないラジオやテレビを自作したからだけではない。知への欲求がそうさせたのだと考えた方が良い。ラジオ発展の歴史を見ると、その泰明期もは誰でもが自由にラジオ局を開設できたし、そのための情報と資源はお金さえあれば入手可能であり、またそれが推奨されていたのである。

今後の社会が環境資源の枯渇と面と向かわざる負えなくなる時代には、作り手と使い手、売り手と買い手の分断を止める必要がある。自分自身にとって必要な資源は、自分自身で作り出すという小さな資源の循環を有効にしていく必要があるだろう。単なるホビーだと思われてきた自作文化も考え方によっては、深い思想を知る端緒となるのではないだろうか。そう考えると料理をすることも、真空管アンプ作りもそれほど離れたところにあるものではない。

エジプトのピラミッドや世界中にある数々のモニュメントを上げるまでもなく、記憶を後世に留めるためにこうした物体が構想され、実体化されてきたのである。それは本来情報は物によってのみ保持されると考えられてきたからだが、デジタル技術の出現で、物と情報を分離して考えるようになった。物にまつわる情報だけが取り出され、収集され、それらの情報を数値処理できるようになった。情報のコレクションがさらに情報を産み、それに新しい価値を与えさえするようになった。物の情報は、インターネットによって自由に流通するようになり、古い価値体系を破壊しつつある。結果、これまで流通しなかった情報が流通し、商品になりずらかった物(=情報が足らない物)が商品になることを可能にした。

真空管は人工的に作られた電子デバイスで、仕様規格書がないとその使い方が解らない。真空管という物とその使い方の情報がセットになって、初めて物としての意味が発動する。もしも、その仕様書を封印してしまえば、技術者には特権を与えることができるわけで、これがいわゆる「企業秘密」である。しかし、すでに開発製造から100年近く隔たった真空管の規格書は完全にパブリックドメイン化されており、誰でも、ほぼどんな真空管でも規格書を探し出すことができるようになった。情報には事欠かないわけで、後はブツ(真空管)が手に入れば、自分で設計した回路を自作することができる、というわけだ。

ここに、本当の意味の自由がある。かつて企業や資本によって独占されていた情報へのアクセスとそれを自分の好きなようにする自由である。その自由を行使することで、やっと個人としての自分が地面の上に立てたと感じることができるのである。