2021年1月17日日曜日

WE401Aと25C5 (2)


スイッチング電源やDCDCコンバーターなどが、目に付くようになってきた。こちらの好奇心がそうさせているのかとも思うが、どうも以前に比べて需要が増えているようだ。小型の電子機器が増えたとか、車のバッテリーで動く機器が増えてきたことと関係があるということらしい。スマートフォンを買えば必ず一個はUSB用のアダプターが付いてくるが、これもスイッチングコンバータである。というわけでこういった機器がどんどん身近になってきている。

こうしたデバイスの中に入力電圧よりも高い電圧を作る昇圧コンバータがあることを知った。真空管アンプでも使えるような200Vを越えた電圧をバッテリー程度の電圧から作ることができるのだ。それで、突然に気が付いた。バラバラのヒーター電圧の真空管を組み合わせることがこれなら簡単にできるのではないだろうか。25C5という真空管には、12C5、17C5、50C5というバリエーションがあり、それぞれのヒーター電圧が違うだけで、それ以外の規格は同一である。本来は使う真空管のヒーター電圧の合計を100Vにすることで、電源トランスを使わないでひとつのセットを構成するために使われたのだ。ギターアンプなどに整流管に35Z5、初段に12AU6、出力管に50C5という構成でヒーター電圧35+12+50=97Vといったものがインターネット上に散見される。

しかし、25Vと6.3Vの組み合わせはどうにも、行き当たりばったりで、うまくない。そこで24VのAC/DCコンバータを使って、25C5のヒーターを点火、さらに降圧DCDCコンバーターを使って、WE401Aの6.3Vヒーターが点火という構成はどうだろうか。

そこで入手したのは、以下の2種類の基板。左が降圧DCDCコンバータ、これで24Vを6.3Vに変換。右が24Vから必要な+B電圧を作るための昇圧DCDCコンバータ。どちらも探せば、千円以内で入手可能。


降圧コンバータは、良くできていてほとんどノートラブルで動くが、昇圧コンバータは公開されている情報がかなりいい加減で、作業中のちょっとした間違いなどで簡単にMOS-FETが飛ぶ。PWMから出てくる高周波ノイズも結構大きい上に、状態によって周波数が変化する。その対処方法を立てるのにえらく時間がかかった。以下の写真は、その時の苦闘の残骸。3個潰して一個生きているといったような状態。


現実問題として、製品のバラつきも激しく、それぞれ確かに動くのだがトランスが唸るなど、品質にばらつきがある。あちこちのサイトで安価で大量にでているのだが、これはどうもバラつきが激しくて検品で引っかかって納品できなかった品物なのではないかと思われる。


まずはじめはこんな感じで、チョークトランスなどこれまでの構成のままに、電源だけをスイッチング電源にしてみる。+Bに乗っているノイズは4Hのチョークコイルとコンデンサのローナス・フィルターでおおよそ退治したが、PWMノイズの周波数が動いていくという、これまでの真空管アンプの電源回路では体験のしたことのない事象に出くわし、原因を理解するのに時間を取られる。


ヒータートランスのあった場所に昇圧コンバータを、その横に降圧コンバータを設置、もう空間がギリギリだが、ともかく動作する。ところが、ケースを閉じて運用しておよそ3時間、突然なんの前触れもなく、音が出なくなり、ケースを触ってみると火傷するほどではないが、かなりな高温。調べてみるとMOS-FETが破壊されている。はじめから付いているアルミ放熱フィンでは足らないらしいので、FETをシャーシに直接取り付けることにする。MOS-FETの足についている黒いチューブは、アモルファス・ビーズ。その効果のほどを試そうということなのだが、どの程度効果があるのかは不明。いちいち脱着して計測するまでの元気が出ない。


その後、コンバータなら自由自在に電圧を変えられるということを思い出し、現状の電圧では25C5の低電圧、高電流の良さがでていないので、とプレート電圧を98Vから115Vまで上げてみる。音は確かに元気になった気がするが、それよりも発熱がひどくなって、やはり2時間後にはMOS-FETが静かに破損。ついに決断して底面と上面に放熱用の穴を空けることに、。


底板が徐々に穴だらけに、なっていくという、この計画性のなさ。まあ、完成を見越した設計をやって、部品を揃えて配線して、測定器で予定通りの性能が出ていることを確認して完了というのはプロの仕事、こちらはアマチュアなので、アマチュアの自由を謳歌することに、。「決して終着駅にたどり着かなくてもよい。」という自由。どこまでも漂流し続けるのがアマチュアの自由。

まあ、こんなところかと思ったのだが、スピーカーを取り替えてみてびっくり、ピューートかピロピロとか音が聴こえる。公表されている規格では、発振周波数は75KHzということだから、問題ないと思ったのだが、この75KHzが間欠運動をするらしい。


写真はオシロの画面をカメラで撮ったもの、下のノコギリ状の波形が昇圧コンバータの出口。ここはPWM(Puls Width Modulation)なので、方形波のデューティーが変化しているものだと勝手思っていたのだが、見てみたらこの有り様。UC3843というコントローラーICが使われているようだが、このコントローラーが出力電圧をみて、出力が予定電圧以下に下がると、PWMのパルスが出て、電力を2次側に送り込むという仕組みらしい。いわばサーモスタットのようなものだが、それ周期が100Hzから2KHzぐらいまでの早さで変化するので、こたつなどのサーモスタットと比べると非常に早い。しかし、これでは当然ノイズが音として聴こえてもおかしくない。


こうなるとまず、この大波をレギュレータ回路で取り払って、細いノイズをフィルターで取るしかない。適当なバラックで回路を組んで始めたんだが、トランジスタがちょっとした加減で飛んでしまうので、きちんとケースにネジ止めしながら実験することに、、。


今度は、さっきのノコギリ波形とは形状が違うんだが、条件によって波形が電圧と負荷のかけ方で違う形になる。左が昇圧コンバータの出力で、6.3Vp-p。右がMOS-FETを使ったレギュレータを通した後で、低い周波数の揺れは止まっている。高い周波数はMOS-FETを通過してしまう模様。


これにコモンモードノイズフィルターを通すと、同じレンジで観測する限りはほぼ真平に。しかし、レンジを上げてみるとまだ、91mVも残っているし、間欠運動の名残りが見える。この後、もう経緯は省くが、音楽をかけたり、一旦電源を切って次の日になるとパターンが変わっていたりということがあり、もういい加減やってられんという気分。

これは、この昇圧コンバータそのものの持つ不安定さなのではないかと見切りをつけることにして、手元に買ってあった他の昇圧コンバータを試すことにした。これも中華製だが、見た感じここまで不安定ではなさそう。


出てくる波形の素性はこちらの方が良いので、これに交換。ここまで苦闘してきたコンバータは、確かに部品代よりも安いぐらいなので、なんらかの曰く因縁がある模様、深追いしない方が良いようだ。

オシロスコープを使って、高周波ノイズを調べてゆくと、昇圧コンバータから出てくるノイズは出力側だけではなく、入力側への漏れていることが判明。ユニットの前にも後にも、コモンモードノイズフィルターを追加。ヒーター用のDCDCコンバータ周辺にも同じフィルターを追加したために、全部で5つのコモンモードノイズフィルターを配置。その結果、かなり実用になるレベルにまでノイズが落ちた。


最終的なシャーシ内部写真。真空管周りの回路、配線は当初よりほとんど変化がない。スイッチング電源にとってはデカップリングのコンデンサーの容量が大きいと立ちあがり時に負担となって、シャットダウンとブートを繰り返してしまうので、容量を下げる必要がある。底面側、右上が昇圧コンバータ、その下がレギュレータ回路、間にトロイダルコアを使ったフィルターが入っているがそれほどの効果はなかったかもしれない。右の壁に放熱のために、直接昇圧回路のMOSFETと、レギュレータ回路のMOSFETがねじ止めされている。左中央が、真空管に向かう直前のコモンモードノイズフィルター。以前と比べて、全体的に軽くなった。


右にあるのが24VDC出力のACアダプター。なかなか見かけない軽快なデザインの真空管アンプ。しかし、見かけによらず、結構パワフルな音。こういう方向性もあるということで、スイッチング電源は今後の検討材料のひとつである。




2021年1月16日土曜日

1920年代のラジオ用トランス


 以下は、1921年版のRCAのカタログである。Radio Corporation America=RCAが、戦前から技術提携していたイタリアのマルコーニ社の技術をもとに、北米に設立されたのが1919年、RCAが放送局(NBC)を開設するのが1926年である。1921年の時点でラジオ放送局はまさに群雄割拠で、合併分裂を繰り返していた。

この時代の真空管の主たる使用目的は、電信、電話とラジオである。電話技術はグラハム・ベルの起こしたATT社によって独占されていたが、ラジオの受信機は一般大衆の自作が主で、そのための手引きが公開されていた。このカタログがそれであり、実に詳細に解説されている。

この時代の真空管は増幅率があまり高くないために、使い方に工夫が必要で、とりわけトランスが非常に重要であった。以下のアンプの回路では、トランスで昇圧した音声信号に、真空管で電力を与えてから、次のトランスでまた昇圧している。この回路では昇圧比の高い段間トランスは必須だったのだ。

下のページはラジオの回路図で、真空管の間にUV-712という型番が見える。上に掲載した写真に見える黒いトランスがこれである。

回路は、受信したAM変調信号を、検波によって音声信号にした後に、増幅してイヤホンにつなぐものである。いったい、このトランスは、現代のシステムの中に組み込むと、どんなことになるのか、作って聴いてみるしかないというのが、工作の動機である。

このトランスの規格は、1:9の巻線比、60Hz~3KHzが使いシロ、電流は10mAまで、電圧は300V、直流抵抗値は1次側430Ω、二次側5.1KΩ。1KHz時の各インピーダンスは、2次オープン時の1次が19KΩ、2次ショートで650Ω、2次のインピーダンスが1次オープンで1.4MΩ、ショートで43KΩとなっている。

以下は、一次側600Ωで、二次側のシャント抵抗を付け換えて、実測した周波数特性である。2次側オープンだと10KHzにピークができているが、112KΩでシャントした特性はかなりいい感じのカマボコ型の特性だ。39KΩではさらに狭まって、ゲインも落ちてしまう。

このハイカット、ローカットの特性は、CRで作ったフィルターとはかなり違った振る舞いをする。CRフィルターでは単にその周波数が欠損するという感じだが、トランスでは感覚的にはエネルギーが中心に寄せられるという感じがするものである。


2021年1月14日木曜日

WE401Aと25C5 (1)


大きな動機があったわけでもなく、気軽な気持ちで手を出したら以外と良い結果がでた。事の始まりは、以下のシャーシが見つかったこと。なんかオシャレなシャーシで、使わないまま30年以上も経っていた。


今どきは、売られていない濃いブルーとアイボリーのツートンカラー。コの字型の板金が2枚咬み合わさるようになっていて、底板の方が少し厚い。とはいえ、30年も経っているので、表面にサビが出ている。これは塗装をやり直さなくてはならないかも知れない。と、当初は考えたのだが、なんと洗ってみたらサビではなくて単なるカビだった。


真空管は、別のアンプで使っている6AQ5といっしょに、まとめて落札した中に含まれていた25C5。この真空管はトランスレス用に作られたヒーターが25Vのもので、黄色いラベルがカワイらしい。戦後ラジオやテレビ用に大量に製造されたというのだが、今は逆に探してもなかなか手に入らない。というわけで、せっかくなのでアンプに仕立ててみたくなった。写真の12本全部で3000円は安いが、使わなければ面倒なゴミになる。


ヒーターの規格が同じ0.3Aの真空管を使えば、抵抗を間に挟んで、直接100VACで、ヒーターを点灯できるということに気がついたので挑戦することにした。WE401Aという真空管はヒーターが0.15Aなので並列にすれば、0.3Aになる。以下がその回路。ヒーター以外の部分をメタルクラッド抵抗で埋めようという魂胆だが、中途半端な値ばかりだ。


これが、そのWE401Aという真空管。あまり使われている事例が見当たらない、使いづらい真空管である。プレート電圧が、Max90V。グリッドバイアスが4.3V。



以下が、最初に考えた回路。まったくなんのひねりの無い2段増幅回路。初段が五極管接続なのに、出力段は三極管接続。


ヒーター廻り、メタルクラッド抵抗(セメント抵抗)の組み方とかかなりな難題がある。
ノートの日付は、2020年の5月5日。


どうやって狭いシャーシに詰め込むか、いろいろ紙面で試行錯誤。 


穴あけ用のテンプレートを、インクジェットで半透明のタックシールに印刷して、実物の上に貼る。


こんな感じ。


部品を取り付けはじめたのだが、チョークコイルがうまく入らないので、90°回転させることに。いったんフレームを外して、ネジを止めるペグを追加。


抵抗とコンデンサー類の配線作業直前の写真。やっとここまできた。



残念ながら、配線終了した完成写真が残っていない。問題はメタルクラッド抵抗が思いっきり発熱。卵焼きが作れるほどではないが、とても使う気にならないほどの高熱。そこで25C5を、ヒーター50Vの50C5に変更してメタルクラッド抵抗を外そうと計画。50C5を探したのだが、見つからないので、兄弟の50B5を購入。

以下の写真はその交換時に撮影したメタルクラッド抵抗ユニット。背後にあるのが50B5、25C5とほとんど同じ規格だが、ヒーターだけが50V仕様。


ヒーター廻りの配線を改修して、電源ONにするも、音は出ないし、しばらくして塗料の燃えるような臭い!!。なんとカソード・バイアス抵抗が焦げていました。上が焦げた抵抗。下がまともなもの。なんと25C5と50B5のピンアサインが同じでは無かったという、、それでカソードに高圧がかかりってしまった。


50B5に変更するに伴って、WE401Aのヒーター用に、6.3Vの小型のヒータートランスを追加搭載(左下の45度曲がった茶色いトランス)。さらに出力トランスをKlangFilmというシーメンスから分社した映画用の機材を製造していた会社のものに変更。そのためにメインの電源トランスがシャーシに入らなくなる。まあ、100V直接でも使える構成だけど、実際にはアイソレーショントランスを外部に置くという構成に変更。これはこれで動きます。


しかし、アイソレーション・トランスの扱いが面倒なので、あまり使う気になれずに、その後はしばらく、そのまま放置されることになりました。

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ここから半年ほど経った2021年1月、突如思いついて電源をスイッチング電源に改造することに、。








2021年1月13日水曜日

より良いものを作るには、感覚を研ぎ澄まさなくてはならない。また既知の知見を集めることも重要だ。知見は、文字に書かれた情報だけではなく、実践がともなっていなければならない。さまざまな情報、図とか、動画とか文字情報以外の情報があるわけだが、それでも実際にやってみないことにはその真意はわからない。できるというのは、頭ではなくて、からだで体得するものだ。

資本主義の発展の中では、すべての人は消費者にされてしまったが、与えられたもの=商品を「買って使う」よりも、「作ってみて知る」ことに意義があるはずだ。戦後日本に自作文化が根付いたのは、貧乏で買えないラジオやテレビを自作したからだけではない。知への欲求がそうさせたのだと考えた方が良い。ラジオ発展の歴史を見ると、その泰明期もは誰でもが自由にラジオ局を開設できたし、そのための情報と資源はお金さえあれば入手可能であり、またそれが推奨されていたのである。

今後の社会が環境資源の枯渇と面と向かわざる負えなくなる時代には、作り手と使い手、売り手と買い手の分断を止める必要がある。自分自身にとって必要な資源は、自分自身で作り出すという小さな資源の循環を有効にしていく必要があるだろう。単なるホビーだと思われてきた自作文化も考え方によっては、深い思想を知る端緒となるのではないだろうか。そう考えると料理をすることも、真空管アンプ作りもそれほど離れたところにあるものではない。

エジプトのピラミッドや世界中にある数々のモニュメントを上げるまでもなく、記憶を後世に留めるためにこうした物体が構想され、実体化されてきたのである。それは本来情報は物によってのみ保持されると考えられてきたからだが、デジタル技術の出現で、物と情報を分離して考えるようになった。物にまつわる情報だけが取り出され、収集され、それらの情報を数値処理できるようになった。情報のコレクションがさらに情報を産み、それに新しい価値を与えさえするようになった。物の情報は、インターネットによって自由に流通するようになり、古い価値体系を破壊しつつある。結果、これまで流通しなかった情報が流通し、商品になりずらかった物(=情報が足らない物)が商品になることを可能にした。

真空管は人工的に作られた電子デバイスで、仕様規格書がないとその使い方が解らない。真空管という物とその使い方の情報がセットになって、初めて物としての意味が発動する。もしも、その仕様書を封印してしまえば、技術者には特権を与えることができるわけで、これがいわゆる「企業秘密」である。しかし、すでに開発製造から100年近く隔たった真空管の規格書は完全にパブリックドメイン化されており、誰でも、ほぼどんな真空管でも規格書を探し出すことができるようになった。情報には事欠かないわけで、後はブツ(真空管)が手に入れば、自分で設計した回路を自作することができる、というわけだ。

ここに、本当の意味の自由がある。かつて企業や資本によって独占されていた情報へのアクセスとそれを自分の好きなようにする自由である。その自由を行使することで、やっと個人としての自分が地面の上に立てたと感じることができるのである。