2021年3月15日月曜日

Miller effect

ミラー効果というのは、アンプ内の静電容量がその増幅率との関係で拡大されてしまうことにより、内部抵抗との組み合わせでローパスフィルターが形成してしまい高域特性が落ちることを言う。元の容量が、(1+増幅率)倍されてしまうのでアンプの増幅率が高いほど効果は強い。


     <図が欲しい。>


実際に製作した6AU6+6AQ5のアンプを例として使う。


6AQ5の原型にあたる6V6の規格表では、入力側から見てプレートまでとカソードまでの両方を足して、9pF、あるいは10.5pFとなっている。では、6AQ5ではどうなのか。


規格表では8pF、幸いMT菅の方が静電容量は低い。ここでEp-Ip曲線上で、プレート負荷を5KΩ、プレート電圧を250Vとし、グリッドバイアスを12.5Vとした時のおおよその増幅率がだいたい20倍とすると、実効の内部静電容量は、8X(1+20)=168pFとなる。


6AU6の規格表のA級動作の部分の切り抜き。プレート電圧100Vの項目を見ると、内部抵抗が0.5MΩになっている。これをそのまま鵜呑みにするわけにはいかないが、まあデータとして扱ってみるとして、これにプレート負荷240KΩ、次段のグリッド抵抗470KΩが並列に並んで接続されたことになる。見かけのインピーダンスは、以下の計算で、120KΩ。

1/((1/500K)+(1/240K)+(1/470K))=120.564KΩ

さっそく、120KΩと168pFによって形成されるクロスオーバー周波数を調べてみる。計算方法は、159÷(コンデンサ容量X抵抗値)。

159/(0.000000168Fx120000Ω)=7886.9Hz

となった。なんと7.8KHzで-3dBの減衰!。実際に製作した最初のアンプで計測した時は、10KHzで−3dB落ちであった。ちなみにクロスオーバーポイント(-3dB)を、60KHzに持っていこうとすると、159/(60000x0.000000168)=15773.8Ω。15KΩまで初段のインピーダンスを下げなくてはならないことになる。そのための方策は、4つほど考えられる。

出力段をドライブできる範囲で、初段の負荷抵抗をともかく下げるわけだが、。
1)内部抵抗の低い三極管接続にする。
2)初段のプレートからグリッドに負帰還をかけて内部抵抗を下げる。
3)五極管を電圧増幅ではなく、電力増幅的に扱って、負荷抵抗を下げる。
4)カソードフォロワを初段と出力段の間に追加する。

などが考えられる。<追加編集中>








2021年3月13日土曜日

6094(6AQ5) + 6AU6


2019年に数人の友人たちといっしょに真空管アンプを製作した。あまりお金をかけずに真空管への理解を深められるようにと考えて、A級シングルエンドにすることにした。シングルエンドアンプは、初段がHiμの三極管で出力段を五極管にするというのが一般的で、12AX7Aに6BQ5(EL84)というのがなんとなく標準形態である。三極管と五極管の両方が一本のMT管に入った6BM8(ECL82)やそのハイファイ版といわれる6GW8(ECL86)といった複合管もキットではよく使われてきた。ECL86には、ヒーター電圧の13.3Vの14GW8(PCL86)というのがあって、これを使ったキットがポピュラーである。2段構成で、出力管をEL34や6L6といったGT管にすると、いかにも「真空管アンプ」という風貌になるけれども、さすがにひと回り価格も上がるし、音のいいとされる真空管はどれもがすでにヴィンテージ扱いになっていて、信じられないような価格である。

気楽にという点では、歴史の長い6V6が良いと思うのだが、かっこいいコークボトル型の6V6はeBayで探しても稀だし、NOS(使われていない新品)ともなると、すでに博物館入りに近い状態だ。特にギターアンプとしての需要が昔からあり、音質を求めるギタリストによって消耗品のように使われてしまったのだ。しかし、1940年に同じ規格のMT管(6AQ5)という真空管が作られていて、戦後製造されたラジオやテレビの音声増幅に多用されたが、1953年に出てきた6BQ5(EL84)という真空管がオーディオ用途を歌って登場したために、それに押されてオーディオ関係ではあまり注目されない真空管となってしまった。というわけで、この真空管は6V6由来の音質を持つ真空管であるにも関わらず安価で手に入るのである。
出力管をドライブする真空管に12AX7Aといった三極管が多用されるのは、この真空管がそれまでにはなかった高利得と低ノイズを実現した画期的な設計であったためだ。しかし、実際に使ってみると音の存在感が若干希薄であるように思う。使う時には、内部抵抗が高いので出力管の内部容量との関係をよく見定めないといけない。プリアンプには適しているかもしれないが、出力管をドライブするのは電圧だけではないので、もうちょっと電力があった方がよいように思う。
こういった真空管素子の欠点を回路デザインでカバーするとか、真空管をやめてMOS-FETを使うとか、現代的な創意工夫はいろいろあるだろうけれども、あまりやり過ぎると、どこまでが真空管らしさなのかがわからなくなる。ここはやはりもっともオーソドックスな素子で、なんの特徴もない回路で行きたいところである。

            加工をお願いしたシャーシが届いたところで、部品の配置を確認中。


     塗装してから、まず電源関係から部品を配置。サブシャーシを工作中。

そこで選んだ初段管は、6AU6という五極管。やはり戦後のラジオ、電蓄に多用された真空管で、規格的には銘球とされているEF86(6267)とほぼ同等の真空管である。ただ、フィラメントの構造によってノイズが多いとか言われているが、微弱な電流を扱うイコライザー回路ではないので問題ないだろう。しかも、在庫が豊富なので安価に手に入る。また、初段も出力段も五極管にしておくと、それぞれをを三極管接続に改編できるので、アマチュアらしい楽しみが増えるだろうというわけである。

初段管、三極管接続(小豆色)と五極管接続(ピンク色)の周波数特性

はじめに、初段管をどういう接続にするか検討するために、2種類組んでみて周波数特性を計測した。高域特性がずいぶん早くから落ちているのが判る。マイナス3dBで40KHz、10KHz。この時の三極管動作はプレート負荷20KΩ、プレート電圧180V電流4mA。五極管動作はプレート負荷240KΩ、プレート電圧140V電流0.5mA。初段管の出力インピーダンスを下げる工夫が必要。出力管はUL接続しているので、ここで出力段のインピーダンスが下がっているという問題もあるようだ。これは「ミラー効果」と呼ばれる真空管アンプを設計製作する人の間では既知の問題だ。真空管内に見えないコンデンサー成分があり、またこれが増幅率によって大きくなってしまうために、前段のインピーダンスとの間でローパスフィルターを形成してしまうのだ。これについては別項で詳しく書いてみたい。とはいえ、音はトランジスタアンプにはないテクスチャーがある。この段階ですでに、みんな真空管アンプが気に入った模様。


2019年段階での最終的な回路図。

最終的には、初段は五極管接続で、出力段プレートから初段カソードに負帰還をかけている。電源は購入できたトランスによって、ブリッジ整流と倍電圧整流がある。出来上がって聴いてみるとやはりなんらかの差があるもので興味深い。倍電圧整流の方に分があるように感じられる。カソード・バイアス抵抗のグラウンドラインと音声信号系のグラウンドラインを分離するように配線してある。出力段はUL接続のままだが、後にここは五極管接続の方が好ましいという判断に至った。


赤が負帰還無し、黄色が負帰還-4dB(24KΩ)、黒が-負帰還8dB(12KΩ)の周波数特性。

歪率測定結果。左から負帰還なし、-4dB、-8dB、-16dB。

周波数特性的には、-4dBの負帰還で、60KHzまで伸びているので、一応これで十分だと思われる。負帰還を増やしてゆくと次第に、100Hz、1KHz、10KHzの3つカーブがきれいに揃ってきて気分がいい。歪も次第に減ってくるのがわかるが、同時に最大出力が下がってしまう。また、なぜか-8dBから、-16dBになって歪率が下がってゆかない。これには別の原因があるのだろう。音的には負帰還を掛けるほどに、真空管アンプらしい元気の良さは失われていって、その分繊細な音になってゆくのは事実。今どきは歪率の低いアンプはいくらでもあるので、自分なりに気に入った歪を持ったアンプを作り出すのが、真空管アンプ自作の妙味というものだ。




外装の無い剥き出しのトランスばかりが5つも内部に詰まった構成。安く上げながら、デザインもよくするための工夫するのは楽しい。この写真は途中段階のもので左右の構成が異なっている。

当初使用した出力管は、6AQ5, 6005などSilvania製だったが、GEのものを購入してみたりした。その後、Bendix製の6094なる真空管の存在に突き当たり、ついにeBayで購入。この話は別途。