2023年3月19日日曜日

Heathkit A-7Eのレストア

 


Heathkit A-7E

戦後のアメリカで軍放出の電子部品を大量に買い込んで、それをキットで売るというHeathkit社のアイデアは時代の波を読んでいた。1947年に発売したO-1というオシロスコープが大ヒット、その後はアマチュア無線機、各種測定器、そしてオーディオ用アンプなどがキットとして発売された。A-7は、1948年発売のA-1から数えて7代目のアンプであるが、同時期にはAシリーズの上級クラスとして、すでにWilliamsonタイプの回路を組んだWシリーズがあった。W-5MやW-6Mは、今でもeBay等で結構な高値で取引されているが、A-7などは比較的安く取引されている。

2020年にロスアンゼルスに滞在した時に、音楽を聴きたくなって、eBayで中古のアンプを物色した時に、A-7を2台落札して、修理してステレオで使っていた。真空管が全部揃っていて、動作保証しないジャンク品が一台1万円と2万円の間で手に入る。トランスとシャーシだけでも買う意味があるような値段だ。




2台はまったく別々の出品者からの購入。そもそもキットなので、構成部品が微妙に違う。写真はとりあえず聴けるようにレストアした時の内部。これで結構いい感じで聴いていた。

シャーシ上に立っているアルミの電解コンデンサーは、どうみてもイカれていたので使わないことにして、新品に交換したが、外してしまうとシャーシのデザインが間が抜けてします。しかし、カップリングコンデンサーの多くは、Sprague社のペーパーオイルコンが使われているので、一応状態をテスターで測った上で、そのまま残してある。回路は、6V6の同等管でヒーター電圧違いの12V6のプッシュプル、位相反転と前段が12SN7GTAの直結、12SQ7がトーンコントロール段、12SL7GTAがイコライザー段に使われている。左の躯体にはレコード用のイコライザー部分が、ギターアンプ用に改造されていて、追加で電源コンセントとエレキギター用の標準フォンジャックが追加されていた。



eBayで買ったA-7Eの組み立て説明書の実体配線図のページ。もの凄く丁寧な説明書で、特にこの実体配線図は、描かれた部品の姿に愛があふれていて惚れ惚れする。日本語で「空中配線」と呼ばれているが、英語では「Point-to-Point」で、最短距離を結ぶという意味がある。適当はレイアウトに見えて、意外と良く考えてある部分もある。AC電源の入り口にヒューズが無いのは驚き。アースは、入力のRCAピンのところに集めた典型的な「一点アース」であるが、電解コンデンサーのところで機構的に一点に集まっているので、うまくバイアス系と信号系のアースが分離できていない。

SP盤からLP盤への移行期

A-7シリーズは、A-7Bが12A6のプッシュプルで、A-7CはA-7Bの初段にプリアンプが追加されており、マイクロフォンあるいはクリスタルカートリッジの取り付けができるモデル。その後A-7DとA-7Eが出て、それぞれBとCに対応するが、Eは初段がマイクインプットではなく、RIAAのイコライザーカーブを持った回路に変更されている。このモデルチェンジの時期は、ちょうどモノラルからステレオへの移行期にあたっているので、商品構成が微妙に変化していた時代だ。




当時の雑誌広告から、左がA-7Bで、右がA-7D。右の広告には1956年のカタログ無料配布の告知が見える。RIAAのイコライザー・カーブがアメリカレコード工業会によって制定されたのが1955年なのでそれに答えるようにモデルチャンジされたのではないだろうか。

このモノ構成のA7シリーズは、ラジオ放送やモノラルレコード向けに販売されていたようで、ステレオを聴くためにもう一台追加で購入したというケースもあったのだと思う。また、手に入れたもう一台のA-7は、このイコライザー部分が手際悪くギターアンプ用に改造され、標準フォンジャックが追加されていた。ステレオ用のアンプに移行してから、使っていなかったアンプをエレキギター用のアンプに改造したのかもしれない。


eBayで買ったA-7Eの組み立て説明書の回路図のページ。書き込みは、購入した2台の躯体とはまた別人物だが、真空管を6V6に変更して、イコライザーをNFB付きのラインアンプに改造している模様で、ヒーターのアンペア数を計算している。ヒータートランスを追加するつもりなんだろうか、。ヒースキット社とやり取りした手紙も一緒になったまま落札した。


イコライザー段の改修工事

今年に入って(2023年3月)、イコライザー部分回復して、レコードを聴けるようにしてみた。回路構成は、12SL7GTA一本のCR型イコライザーで、調べてみると当時のRCA社 Radio Tube Handbookに載っている回路そのままのコピーである。Handbookには、NF型のイコライザー回路は載っていない。RCAが推奨する回路は50年代当初からCR型だったのだろうか。とりあえず音は出た。


1959年発売のRCA社Receiving Tube Manual(RC-19)掲載のRIAA用イコライザー回路。1956年版のRC−18にはRIAAの参考回路は掲載されていない。

使われている回路はCR型で、当然といえば当然だが使われているCRの値がA-7EのEQ回路とまったく同じだった。図中の7025は12AX7Aの高信頼度管でともにμ100。ところが、A-7Eで使われている12SL7GTAは、μが70しか無い真空管である。この増幅率不足の真空管で同じ回路を組むのは無理がある。更に問題なのは、カソードに電流帰還がかけてあるので増幅度はさらに下がっている。これでは、特に低域が十分ではない可能性が高い。さらに、ヒーターもACのままなので、ハムと雑音でレコードを聴くには、ボリュームをあまり上げられなかったのではないだろうか。



もう一台は、全部の部品を撤去して、現代のパーツで組み直すことにした。オクタル・ソケットの穴の位置と穴径が合わない、、、。しかも、6個同じものが揃わず、一個は白いセラミックになってしまった。

途中写真撮らなかったので、突然の完成写真となってしまったが、現在手に入る部品で組み立てた。



その後の組み上がった躯体のハラワタ。部品の足の長さでだいたいが足りるので、配線材はアースラインぐらいしか使わなかった。すっきり。ノイズが不安でシールド線をだいぶ使ったが、最終的にシールドのために底板を追加することになったので、これらのシールド線は必要なかったかもしれない。もう一台をレストアする時には、シールド線を使わずにやってみよう。

AC電源電圧が115Vで設計されているために、そもそも当初のプレート電圧が出ていない。外部に100Vを115Vに上げる昇圧用のトランスを使うという手もあるけれども、この程度のアンプでそれをやるのは面倒なので、残念だが整流管をダイオードに変更してみた。AC電源の電圧差15Vがちょうど整流管によるロスと同じ程度だったようで、B電源が設計時の電圧390Vに10V足らないが380Vになった。

電源には、40uF、30uF、20uF、20uFが一本に組み込まれた複合型のコンデンサーが回路図には示されているが、驚いたことにこの躯体には40uFと30uFしか組み込まれていないコンデンサーが使われていた。ということは、初段用のコンデンサーと出力段のカソード・パスコンが不在のまま組み立てられていたことになる。そもそも改良された躯体なので、持ち主が交換したのかもしれないが、当初からこのコンデンサーが配布されていたとすると、本来はクレームものだ。50年代は、電解コンデンサーそのものが、まだ不安定で高価な部品だったはずなので、違いに気づかずにいたのだろうか。

そこで、手元にあった形の合うコンデンサーとして、Mundolf社製の500V耐圧200uFx2という、えらく豪華なコンデンサーを使った。手元に1個しかないので、もう一台もレストアするなら探さなくてはならない(調べたところ、フランスのパーツ屋さんで安く手に入るようである)。その他の部品はすべて現在手に入るものを使った。まったく同じ複合型のコンデンサーも買うことはできるが、初段のカソード・バイパスコンデンサーと電源回路のリプルコンデンサーが同じアースポイントになってしまうのは、ちょっと許しがたいので止めておくことにする。

ライン入力に関しては、ボリュームを上げてもまったくノイズが聴こえない状態にまで仕上がったのだが、フォノイコライザー入力に切り替えると、ボリュームを上げるに従って、50Hzのノイズが結構盛大に聞こえてくる。ボリューム半分ぐらいまでは我慢できるが、それ以上はちょっと耐え難い。いろいろやってみたが、12VのAC/DCアダプターをこのイコライザー段専用に追加してヒーターをDC駆動することにした。これでレコードも快適に聴くことができる。

ハムがなくなると、今度は12SL7GTA個体固有の問題なのか、マイクロフォニックノイズと環境からのノイズの飛び込みが結構ある。真鍮のネットとシリコンリングをアマゾンで買ってみた。それぞれ、一応は効果がありそう。


その後、底板の追加

ボリュームの中間位置でノイズが出る。ボリュームの次に来る真空管のグリッドが浮いて来るからだ。いろいろやったんだが、結局底板を追加することになった。昔は、現在のように環境ノイズが大きくなかったんじゃないだろうか?今の住環境は、デジタル系の高周波ノイズ満載で、音楽を聴くには向いてない。シールドの重要性を理解したレストアだった。


少し専門的な話

50年代の真空管アンプがどのような配線をされていたのかに、ちょっとした興味があった。特にアースラインのとり方である。結果的には電解コンデンサーの問題で、この配線方法では、信号系とバイアス系のアースの分離がうまくいっておらず、ハムもノイズもこれ以上は下がらなかっただろう。60年代に入ってくると、スピーカーの効率がだいぶ下がってくるので、この程度のハムは許容範囲になりつつあったのかもしれない。というわけで、レストアした躯体は、ほぼ完全にノイズとハムは駆逐した。

6V6という真空管は、出力がそれほど取れないことと、その直後に出てきた6L6に押されて人気が今ひとつなのだが、割と簡単に良い音の出るアンプを作ることができる自作向きの真空管である。その魅力の秘密をいろいろ探って来たのだが、それは2次高調波と3次高調波の出方にあるように思う。真空管をシングルエンドで使うと、2次高調波が主になるが、出力を上げていくと、どこかで3次高調波と入れ替わるものである。どこで3次高調波に入れ替わるかが、真空管の個性のようだ。この6V6という真空管は、じつは他のビーム管に比べて、比較的早めに3次高調波に入れ替わるのである。ここに秘訣があるように思う。





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