2023年4月25日火曜日

6AU6+6AQ5のチューンアップ

 6AU6+6AQ5のチューンアップ


どこをいじっても音が変わるのが、真空管アンプの楽しいところなので、理由はともかく部品を交換してみたら、どうでしょうか?




コンデンサー

1)初段と終段の間をつなぐコンデンサー

いわゆるカップリングコンデンサー。初段のプレート電圧が次の終段のグリッドに流れ込まないように、DCをカットする機能がある。なので、まずプレート電圧に耐えられる十分な耐圧を持ったコンデンサーが必要。容量は次に来るグリッド抵抗との組み合わせで低域の時定数を構成するので、大きくすると通過する低域周波数が下がる。小さくすると低域がカットされる。まず、品種ではなく値を変えて変化を確認すると良い。

Marantz 7に使われていた、Bumble Bee、Black Beauty。MullardのMustardなどが、ヴィンテージとして有名だが、どれも異常に高価。

上の2つ:SpragueとPyramidのオイルペーパーコンデンサー、プラスチックに封印してある。下の3つ:MullardのMustard、ASCとEROのフィルムコンデンサー。



耐圧の計算方法:前段のプレートにかかっている直流電圧に交流信号の振幅を足した分までの耐圧が必要です。6AU6+6AQ5の場合には、6AU6のプレート電圧は127Vです。6AQ5のカソードバイアスが14Vなので、最大でプラスマイナス14Vの音声信号がこれに加わります。127V+14V=141Vが最低限必要な耐圧。ただし、なんらかの事故、例えば前段の真空管無しで電源を入れた場合は、+Bの電圧が直接かかることになるので、実際にはプレート電圧ではなく、+B電圧までの耐圧は必要。これでいうと294V。まあ、耐圧は350Vは確保したい。

低域の時定数の算出:このコンデンサーとグリッド抵抗によってできるフィルターは、低域をカットするフィルター(ハイパス・フィルターとも呼ばれます)として働きます。1オクターブ辺り−6dBの傾斜のカーブで、カットオフ周波数(−3dB下がった場所)は、以下の計算で算出できます。

Fc = 1 / (2π・R・C)

例えば、抵抗が1KΩで、Cが1uFの場合は、

Fc = 1 / (6.28 ・1000Ω ・0.000001F)

 = 1 / ( 0.00628 )

 = 159.235 Hz

実際に使われている抵抗は470KΩ、コンデンサーは0.033uFなのでカットオフ周波数は、

Fc = 1 / (6.28 ・470000Ω ・0.000000033F)

Fc = 1 / (6.28 ・0.01551)

Fc = 10.266645312044418 Hz

となっています。面倒な人は以下のURLで計算してくれます。

http://sim.okawa-denshi.jp/CRhikeisan.htm

Cの容量を増やすと、通過する低域は下がりますが、それなりの弊害もあります。試しにCを減らしていくと、逆にスッキリとした音になることもあります。

コンデンサーの種類や製造会社によって音が変化するのは、コンデンサーの共振周波数が関係しているようです。共振周波数を可聴帯域の外に持っていくというのが課題のようです。



2)カソードとアースの間をつなぐコンデンサー

自己バイアス回路には必須のコンデンサーで、カソードの位置を交流回路的に、アースに落とす役割を負っている。耐圧はカソードバイアスの2倍から3倍あればよい。容量を増やすと低域が伸びる。普通は電解コンデンサーを使うが、OSコン等のESRの低い高分子電解コンデンサーを使うと音がすっきりすることがある。フィルムコンデンサーも有効。

逆にこのコンデンサーを外すという方法もあって、外すと交流信号の行き場がなくなり元に戻ろうとして帰還がかかる。出力は下がるが、音の質が変わる。

左2つが、低ESRの高分子電解コンデンサー、あまり高い耐圧のものがない。
右はPhilipsのチューブラー型電解コンデンサー。

耐圧の計算:カソードバイアスの抵抗値は、自己バイアスで真空管を運用する上で、バイアスを決定する重要な部品である。われわれのアンプでは、初段が1.8V、出力段が14V。そこを基点にして、プラスマイナス分の音声信号(交流)が流れるので、結果的にカソードバイパスコンデンサーは、自己バイアス電圧の2倍の耐圧は絶対に必要になる。




3)電源整流回路のコンデンサー

整流直後のコンデンサーは重要な役割を負っているので、ここをいじるとなんと音がいろいろに変化する。昔の真空管アンプでは、ここの定番はオイルコンデンサーだった。四角いグレーの箱の形したあれ。

その後複数のコンデンサーがひとつにまとめられているスプラグとかマロリーの電解コンデンサーが多用されたが、アースが一点にまとめられてしまうので、音質上は問題が多い。

最近の流行りは、ここにオイルフィルムコンデンサーを使うことで、エアコンなどに使われているコンデンサーが部品屋でよく売られている。そもそもリプルを取る目的のコンデンサーなので、ハムも減るし、ESRが低くなることで、電源回路のインピーダンスが下がる効果がある。結果的に音がなめらかになり、ディティールが聴こえてくるという効果がある。100uF500Vといった規格になると大変に高価。

左が、Spragueの複合電解コンデンサー、取り付け形状がリムロック。中央が中華製のエアコン用フィルムコンデンサー。右がSolenのオーディオ用フィルムコンデンサー。

すでに使われている電解コンデンサーに少量のフィルムコンを並列に追加するだけでも、効果はある。おそらく追加したフィルムコンの分だけESRが下がるからではないだろうか。





抵抗器

1)グリッドの手前に入っている抵抗器

グリッドは、そもそもインピーダンスが高い場所なので、外部からのノイズが入り込みやすいので、いろいろな形でプロテクトしてあげる必要がある。次段のプレートからの信号線も短い方が良いが、グリッドの直前に10KΩから1KΩ程度の抵抗を入れて、ノイズのゲインを下げると効果がある。抵抗値には回路によって最適値があると言われているが、どの記事を読んでも試行錯誤するしかないと無責任にかかれている。多分、当人が苦労しているから、教えなくないのだろう。


2)初段のカソードバイアス用の抵抗

バイアス値は、真空管を計画通りのバイアスをかけるために重要なのだが、初段で発生した2次歪が、終段で逆向きの2次歪と出会うために、運が良いとそれらが打ち消し合うことがある。そこで、入力に1KHzを入れておいて、このカソードバイアスの抵抗値を動かして行くと、2次歪が下がる場所が見つかることがある。


3)負帰還の抵抗

負帰還の抵抗値を変えると当然だが、いろいろに変化する。ギターアンプのブライトといったツマミは、この負帰還量を増やして歪を下げるようになっている。自作のアンプなのだから、ここを可変抵抗器にするのは楽しい。






2023年4月24日月曜日

リプルフィルターの設計方法


リプルフィルターの設計方法

+B電源由来のハムは、きちっとリプルフィルターの計算がしてあれば、チョークを入れなくても、出力で1mV以下にすることは可能である。

1)整流直後のリプルがどれぐらいあるのか、まず知る必要がある。ぺるけさんの以下のページに、ぺるけさん独自の計算用のグラフがある。「整流直後の残留リプルは、「負荷抵抗(RL)」と「平滑コンデンサ容量」とでほとんど決定されてしまう、」とあって、必要な値は、RL=(取り出す電圧/電流)と整流直後に使うコンデンサー容量である。整流直後のコンデンサーの値の大きさが非常に重要になるが、整流管を使った場合にはそれぞれの整流管によって限界値があるので注意する。

ぺるけさんのページ

でも実際には、電源回路部分を仮組みしてみて計測するのが筋。


2)元々のリプルの量が判ったら、そこからどれぐらいの割合を下げればよいか計算して目標値を決める。メインアンプで1mV前後まで落とせれば、効率高い100dB並のスピーカーでもハムはほとんど聴こえなくなる。


3)その目標値に向かって、RCフィルター(あるいはチョークを入れてRLCフィルター)の値を計算する。両波・全波整流は100Hz、半波整流なら50Hz時の減衰量を求める。フィルター1段では届かない場合は、2段設けて掛け算する。


・設計があっていてもうまくいかないのは、実装が間違っているからだろう。回路のどこかに浮いている部分があるとか、アースラインがループを形成していないかよく見る。

・特に両波整流用トランスの中央端子の扱いが問題になることがある。ここはシャーシにすぐに落とさないで、信号回路のアースラインかできるだけ離すように工夫する。

・忘れがちなのは、ヒーターラインのアース。AC点火の場合には、素直な50Hzのハム。初段のハムが増幅されている場合がある。

2023年4月12日水曜日

ハムとノイズ、原因と排除方法

ハムとノイズ、原因と排除方法


1)B電源由来のハム

 両波整流、全波整流は、100Hz、片波整流、倍電圧整流は50Hz。音を聴いてハムの発生源を推しはかることが可能。50Hzでも正弦波とスパイク状になった波形では、音はまったく違って聞こえる。

・電源回路のグラウンド基点をどこに取るか、音声信号のグランド基点をどこに取るか、それぞれの信号が交差しないようにする必要がある。例えば、一点アースしているはずなのにいくらリプルを取る対策をしても消えない場合には、一点アースを音声信号が通過している場合がある。

・整流後の一発目のコンデンサーの選択が以外と重要で、ともかくその後のリプル除去作業を楽にする。リプル除去能力の高い、電源リプル向け電解コンデンサーを使う。フィルムコンやオイルコンが、よりベスト。

電源回路のインピーダンスを下げるとノイズが全体的に下がるという効果がある。低ESRコンデンサーで高耐圧のものは存在しなしが、電解コンの並列化で抵抗値を下げることができる。

・整流直後のリプルがどれぐらいあるか把握してから、パイ型フィルター、あるいはチョークフィルターに使うコンデンサーの容量を計画する。「リプルフィルターの設計方法」を参照。


2)ヒーター電源由来のハムは、ACでは50Hz。ブリッジ整流したDCでは100Hzになる。

・メインアンプで使っている真空管が傍熱型である場合には、普通は、ヒーターをDC化する必要はない。

・重要なのは、ヒーター電源のグランドをどのように取るか。使う真空管の内部構造も影響する。双三極管には、2つの三極管の間にシールドが入っている物がある。シールドをグラウンドに落とす必要がある。アースは信号用アースではなく、影響の出やすい初段近くで落とす。

・真空管ソケットのセンターピンは、主に高周波用のアースなので可聴帯域を扱うアンプでは重要ではないが、アースにつないである方が安全。アースは信号用のアースではなく、近所のグラウンドにつないでおく。つないでおかないと宙に浮いた金属がアンプ内に存在することになり、ノイズを拾う可能性がある。

・自己バイアスの場合には、ヒーターとカソードの間で電流の飛びつきが起こることがあり、ヒーター・グラウンドをカソード・バイアス値まで持ち上げるとノイズ低減に効果がある。


3)電磁誘導のハム

 電源トランスから、出力トランスや入力トランスへ、磁界を通して乗り移るハム。たいがい、きれいな50Hzの正弦波。トランスの向きや位置を変えるか離す。磁場を通さない金属でシールドされたトランスに変更するしかない。銅板を巻きつけた静電シールドは、電波ノイズを抑制することができるが、電磁誘導によるノイズには対応できない。


4)静電誘導ノイズ

電源トランス自身がノイズ源になる。トランスに銅板を巻きつけた静電シールドは、ノイズ源の抑制に役立つ。シリコンダイオードから、またACケーブルからも静電ノイズが出る。AC電流が流れているケーブルを徹底的にツイストすることによって抑えこむことができる。信号線には、シールド線を使うことで音声信号への紛れ込みを低減できる。


5)外来ノイズ

 現代の生活環境は、ケータイ電話やコンピュータから発生する高周波ノイズにあふれている。周辺の電熱器や蛍光灯などからも低周波ノイズが紛れ込んでくる。外部からの高周波ノイズは、AC関連インレットにEMI対策を施したものを使うことで低減できる。低周波ノイズは、回路内にアンテナができているいて拾っているケースがある。アンテナができていないか観察する、あるいはシールドする。

・ボリューム位置の中間で、出てくるノイズは、ボリューム位置によって回路のインピーダンスが変化し、アンテナになっているために起こる。ボリュームのケースをアースに落としたり、アンプケースそのものを蓋をしてシールドする。

・金属的に導通していない金属部品があると、それがアンテナとなって、ノイズを拾う。最終手段は、アンプ全体を金属で覆って、シールドする。


6)マイクロフォニック・ノイズ

真空管特有のノイズ。管内の構造そのものが空気振動などを受けて、エコーのようなノイズを出す。

・真空管そのものをミリタリースペックなどの高品質なものに交換する。

・ゴムダンパー等によって、躯体から真空管を浮かして、環境の振動が真空管に伝わらないように工夫する。管の周りにシリコンのゴム輪を被せる。


7)熱雑音

 回路内の抵抗器や真空管自身が出すノイズ、暖まると出てくる。抵抗器は値が大きいほど、ノイズは大きい。インピーダンスが高い回路ほど大きくなるが、真空管アンプはそもそもインピーダンスが高いので、注意が必要。

・次段とのインピーダンス接合を工夫することによって、ノイズレベルを下げることができる。カソードフォロワーを入れたり、アウトプットトランスをいれるなど、。

・NFBによって、負帰還ループ内で発生したノイズレベルを下げることができる。

・そもそも、アンプ内の温度の上昇を抑える。ファンの追加、空気の流れを作る。放熱板、放熱フィン等を真空管に取り付ける。全体の消費電流を下げて発熱そのものを下げる。

・抵抗器をオーディオ用のものに交換する。


8)モーターボーディング

 3段以上のアンプでは、+B電源のラインを経由して、非常に低い周波数の発振が起こることがある。出力段の+B電源ラインは、音声信号の大小によってやや多めの電流が消費されるので、それに合わせて電圧が揺れている。つまり、+Bの電源ラインでも音が鳴っているのだ。この揺れが初段の+B電源に届くとそれが入力信号に付加されて、ループができてしまい、発振する。2ヘルツとは、低いもので、ボツ、ボツとスピーカーが前後に揺れて、飛び出して壊れそうになるものだ。

特にプリアンプなど、高い増幅率の場所で起きやすい。

各段の+B電源の分離がうまく行われていない場合に、別の段の+B電源に交流信号が流れ込むことが原因である。+B電源に入っているコンデンサーのことを、デカップリング・コンデンサーと呼ぶのは、そのためである。モーターボーディングが起きないまでも、このフィードバックによって、ハム音が増大している場合もあるので、要注意である。

・各段のデカップリングコンデンサーの容量を増やす。そもそも、付けていなかったということもあるのでは?

・+B電源を出力段から、その前の段へ、またその先の段へと引き継いでいる場合には、初段の+B電源を次段から取らずに、出力段から取るなどの対策がある。